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太箸のその選びたるものを食ふ

  • 執筆者の写真: 歌澄
    歌澄
  • 1月28日
  • 読了時間: 3分

『真紅の椅子』より 平成八年。

 太箸は新年の膳に用いられる白木の太い箸。角川文庫の『俳句歳時記・新年の部』(昭和六十二年)によると、「なぜ太いかといえば、足利七代将軍義勝が、元朝に用いた箸が折れ、その年の秋に落馬してわずか十歳で死んだので、新年の箸は折れないように太くしたのがはじまりだという」とのこと。素材は折れにくい柳や檜などを用いる。両端は細く、中心部に膨らみがあるのは「孕み箸」にも通じ、子孫繁栄を祈念するものでもある。両端が同じ形なのは、一方は神様(年神)が使うためで、新年の膳を年神と共に頂く神人共食の意味合いがあるという。


 掲句はそんな「太箸」の在りようを余すところなく表現している。「その選びたるもの」は太箸、つまり食事を共にしている年神が選んだということだろう。自分であれこれ選ぶのではなく、箸を構えたまま神様に任せているゆったりした作者の様子が覗える。節料理も品数多く、色とりどりに詰められていて、どれから食べようか迷うようなものなのだろう。それぞれの品に込められた願いにも思いが至る。その中に太箸の白さが浮立ち、大らかでめでたい新年の気分が溢れている。


 高校の教科書で読んだ井原西鶴の作品の中に、「太箸は正月に使ったものを白さを失わないように洗って(時には削って)大事に使うためのものだ」と説く倹約家の話があったように記憶しているが、詳細を失念してしまった。この稿には間に合わなかったが、これから探す予定。

(以上「三日月」令和8年1月号より)


・・・というわけで探しました。

井原西鶴の『日本永代蔵』巻二、「世界の借屋大将」


主人公の藤市は借屋住まいながら、倹約と吝嗇に努め時局に精通し、千貫の身代を築く。

のちに家を得るが、「家持で千貫程度では塵に等しい」とその暮しぶりは変らず、娘にも受け継がれている。

正月のために家で餅つきをすると、つき手の手間賃も高くつくので餅屋から買うことにしており、手代がつきたての餅の重さを量って代金を支払ったら、なぜ冷めてから量らなかったと咎める(餅は冷めると目方が減るらしい)。


正月七日に三人の男が藤市の許を訪れる。成功の秘訣を伝授してもらうためだ。座敷へ通される途中、台所からすり鉢で何かを摺る音が聞こえる。

客、耳を喜ばせ、これを推して、「皮鯨の吸物」と言へば、「いやいや、初めてなれば、雑煮なるべし」と言ふ。又一人は、よく考へて、「煮麺」と落ち付けける。必ず言ふ事にして、をかし。

藤市が現れて、正月の縁起物について話す。

・七草…増水(雑炊)を心に留めさせるため

・掛鯛…毎日肴を食うのではなく、これを見て食べた気になれということ

*掛鯛…正月の祝儀に藁縄でつないで竈の上に掛けて置く二尾の鯛。六月一日にこれを食すと疫病を逃れるという。

で、太箸。

あれは、汚れし時白げて、一膳にて一年中あるやうに、これも神代の二柱を表すなり。よくよく万事に気を付け給へ。

と倹約の心を説く。

そして、

さて、宵から今まで、各咄し給へば、最早夜食の出づべき所なり。出さぬが長者に成る心なり。最前の摺鉢の音は、大福帳の上紙に引く糊を摺らした」と、言はれし。

高校生の頃、客があれこれ想像する場面がとても印象に残ったので、オチの部分と合わせて原文を載せてみた。

図書館で全集を見つけたが、面白くて古本を入手してしまった。

藤市の精神には適っていない。

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