点滴夢菫の匂ひかとおもふ 一考
- 歌澄

- 4月25日
- 読了時間: 2分

句集『貌鳥』より。平成元年。
この年の「人」5月号によれば、
二月一日急性虫垂炎で入院手術。腸閉塞に移行しその後高血圧症。三月二十一日退院。
とのこと。主宰作品の後半は病院での句が並んでいる。
執刀の寒月光を隔てけり
アネモネや溲瓶にぎにぎしく鳴りぬ
バレンタインデー食(は)み合ひ縺る車椅子
春曙いのちのいろに適ふべし
初蛙浣腸哄ふこと勿れ
入院中でも観察眼を光らせて句を詠んでいるが、掲句はその中で幻想的というか、まどろみの中、感覚的に把えられた感があった。
うつらうつらしていたら菫の匂いがした。目を開けると点滴の最中で、雫が規則正しく時を刻んでいる。病院という清潔で特殊な環境が、春の明るさと相俟って作者にそんな錯覚を起こさせたのだと思った。「点滴夢」は作者の造語かもしれないが、そんな空気をとてもよく描き出している。
本日のこと。
父が体調を崩して点滴を受けることとなり、私が付き添った。
3時間もかかった。その間父はまどろんでいた。
輸液は500ml。うっすら紫がかった液体だった。
それを見た瞬間に掲句を思い出した。
「菫の匂ひかとおもふ」には、もしかして視覚的な要素もあったのかもしれないと思った。
こんな状況で一考さんは句をものにしたんだな~と感心した。
父の体調も回復に向かい、少し緊張が解けた春の午後。
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